
──職場は、会議より“雑談”で動いていた
1.「みんな知ってたよ?」でも、俺は聞いてない
俺はASD、いわゆる自閉スペクトラム症の傾向がある。
雑談が苦手だ。
何を話せばいいか分からないし、空気を読むのも下手だ。
だから、職場でも必要最低限の会話しかしないようにしてた。
挨拶、報告、相談、それだけ。
でも、ある日突然、こう言われた。
「え、それ伝えてなかったっけ?」
「みんな知ってたよ? 昼休みに話してたじゃん」
「いやー、雑談って大事だね〜笑」
──雑談って、“業務連絡”だったんですか。
知らなかったのは俺だけ。
仲間はずれというより、“非通知リスト”に入っていた感覚。
2.「空気を読んで入ってきてよ」ができない脳
昼休み、ちょっとした休憩、出勤前の5分。
みんなが輪になって雑談している。
でも、俺は入れない。
入り方がわからない。
何を話せばいいかもわからない。
タイミングを測っても、話題が変わるスピードについていけない。
「もっと気軽に話しかけてよ」
「遠慮しすぎじゃない?」
──そう言うけど、“遠慮”じゃない。“設計”の問題なんだよ。
ASDの脳には、雑談のルールが非言語すぎて、解析できない。
でも、話に加われない人は、「距離のある人」扱いになる。
話しかけにくい。
付き合いづらい。
だから、情報も回ってこない。
3.「信頼関係がないと任せられない」=雑談してないと評価されない
業務は問題なくこなしていた。
むしろ、誰よりも正確に、丁寧に処理していた。
なのに、重要な仕事は他の人に回っていった。
上司はこう言った。
「○○さんとは、まだあまり信頼関係ができてないからね」
──そうか、“飲み会”と“昼の雑談”が評価の土台か。
いくら成果を出しても、
雑談しない人は、「信頼できない人」にされる。
「距離感がある」
「壁がある」
「何考えてるか分からない」
──ASDの特性そのものが、人事評価で不利になる社会。
4.配慮を求めたら、「やっぱり合わないんじゃないか」扱い
一度、支援機関の助言で、職場にこう伝えてみた。
「自閉スペクトラム症の傾向があるので、非公式な会話に混ざるのが難しい。情報はなるべく口頭より書面でほしい」
上司は「分かりました、大丈夫ですよ」と言った。
けれど──それ以降、仕事が減った。
「無理させないようにしようと思って」
「ちょっと静かな環境で別の仕事もあるから、そっちにしてもらうね」
それはつまり、「主戦場からの降板」だった。
──配慮とは名ばかりで、配置転換という名のフェードアウト。
合理的配慮を求めた結果、重要な情報からもさらに遠ざけられていく。
5.職場は“非公式な人間関係”がすべてを決めていた
俺がいた職場は、表向きは「個性を尊重する」って言ってた。
でも、実態はちがった。
昼の雑談で次の業務が決まり、
タバコ部屋で新プロジェクトが立ち上がり、
飲み会で昇進候補が選ばれていく。
ASDの俺には、どこにも居場所がなかった。
黙々と働いてるだけじゃダメだった。
話しかけてもらうには、雑談に自分から溶け込まなきゃいけなかった。
でも、それができない脳なんだ。
苦手とか、努力不足とかじゃない。
もう、設計ミスのレベルなんだよ。
終わりに:「情報は、空気の中に流れていた」
ASDの人にとって、職場は“言語外のルール”だらけの戦場だ。
明文化されないルール。
空気で判断される人間関係。
“場のノリ”で進む会話。
そこに参加できないと、「いないもの」になる。
──俺たちは、“空気”が読めないんじゃない。
そもそも、“空気”という情報媒体に、アクセスできないだけだ。
でもそれは、社会の側からすれば「努力不足」「関わろうとしない人」。
気づけば、俺は職場の真ん中にいるのに、
“外側”の人間になっていた。
もう、何を頑張ればいいか分からない。
たぶん、頑張ること自体、もう間違ってるのかもしれない。

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