履歴書で落とされる人生

看護

――面接にすら辿り着けないという敗北


履歴書。
それは、この国でもっとも小さく、冷たい通行証だ。
サイズはA3、内容はA4、でもその紙一枚に、
「お前の人生に価値があるかどうか」が問われる。

名前、生年月日、学歴、職歴、志望動機――
どれだけ空白を埋めても、
「会ってみよう」と思われなければ、それはただの紙くず。

俺は、紙くずを数百枚持っている。
そして今も、それを書き続けている。
返事もないまま、送っては沈む、返ってこない海に向かって。


■ 履歴書は、過去しか見ていない

「なぜ、前職を3年未満で辞めたのですか?」
「なぜ、正社員になっていないのですか?」
「なぜ、空白期間があるのですか?」

まるで、告発状みたいに。
履歴書というのは「未来の可能性」ではなく、
「過去の整合性」だけで判断される書類だ。

いくら今やる気があっても、
「過去にそうでなかったなら、信用できない」という理由で落とされる。

だけど、人生にはいろいろあるだろう?
家族の介護とか、病気とか、人間関係とか、ブラック企業とか、
そういう“語ると面倒そうな背景”は、
あらかじめ「マイナス」として処理される。

過去を正しく生きられなかった者に、
チャンスは与えられない。
この国の履歴書は、「人生の後出しジャンケン」なのだ。


■ 学歴フィルターという見えない地雷原

応募条件には「学歴不問」と書かれていた。
だが、現実にはフィルターがある。
高卒や中卒の履歴書は、
開封される前から運命が決まっている。

「大卒以上を希望しています(できれば有名大)」
「中途の方は前職の企業名も重視しています」
それならそう書いておけよと思うが、
書かれていないのは、“言うと差別になる”からだ。

言ってはいけないけど、やっている。
書かれていないけど、落とされる。

俺はそれを、「無言の門前払い」と呼んでいる。
この国の求人票には、
“正直”と“誠実”が足りない。


■ 志望動機の地獄

「なぜ当社を志望したのですか?」

……正直に言えば、「生活のため」です。
だけどそれじゃ通らない。
だから毎回、嘘をつく。

「御社の理念に共感しました」
「前職での経験を活かし、さらなる成長を目指したいと考えました」
「社会に貢献できる仕事を探しており……」

全部テンプレ、全部ウソ、全部“書類通過用の魔法の呪文”。

本音では「職場の人間関係が地雷でなければどこでもいい」と思っている。
だけど、そんな正直者は履歴書の段階で“ふるい”にかけられる。

本音を書いてはいけない。
だけど嘘くさすぎても落とされる。
この国の履歴書は、「納得できる嘘を演じる力」を試される舞台なのだ。


■ 手書き文化という懲罰的伝統

いまだに「履歴書は手書きで」が根強い会社がある。
「丁寧さが伝わる」「本気度が見える」
そんな言い訳の下に、
“デジタル非対応の昭和文化”が延命している。

手書きの履歴書、書き損じたら最初からやり直し。
時間をかけて書いても、不採用通知すら来ないこともある。
ハローワークのプリンタは行列、証明写真は毎回700円。

受かる保証もないのに、
1通あたり800円と3時間をかけて“応募する権利”を買っている。
まるで人生というオーディションに、何度も落ちるエキストラだ。


■ 不採用通知が来るだけで“まし”という地獄

「残念ながら今回はご縁がなかったということで……」
この定型文が送られてくるだけで、「あ、今回はちゃんと見てもらえたんだ」と思ってしまう。

悲しい話だけど、現実だ。
多数は“無視”。
送った履歴書が、ポストからゴミ箱に直行しても、誰も気にしない。

それでもまた、今日も1通送る。
たとえ「今回もダメかもしれない」と思っても、
ゼロではない可能性にしがみつくしかないのだ。


■ 履歴書で落とされる人間に、生きる場所はあるのか

俺は、悪人じゃない。
不真面目でもない。
誰かに迷惑をかけているわけでもない。

ただ、「理想の履歴書」ではなかったという理由で、
この社会から、何度も拒絶されているだけだ。

履歴書では、人格はわからない。
だけど、社会はそれで“人間の価値”を決めている。

そんな仕組みに、静かに殺されていく人がいる。
日々、誰にも知られず、黙って折れていく人がいる。


■ 最後に:履歴書では測れないものがある

「履歴書がすべてではない」と言う人がいる。
でも、それは通過した者の言葉だ。
落ち続ける側にとっては、それがすべてなのだ。

どうかこの国が、“落とすための仕組み”ではなく、
“出会うための仕組み”になってくれることを祈る。
そのために必要なのは、たぶん――
人を「紙」で判断しない、勇気ある一人の面接官だ。

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