“履歴書の空白”を説明できる言葉が、どこにもなかった

看護

1.「この空白期間、何をされてましたか?」

面接官に、そう訊かれるたびに思う。

──あんたは、“壊れてた”って言えば納得するのか?
──それとも、“何もしてません”とでも言えば気が済むのか?

でも俺は、今日も口をつぐむ。
そして、都合のいい嘘をつく。

「資格取得の勉強をしてました」
「家族の介護がありまして」
「ちょっと体調を崩してまして……」

嘘だけど、ある意味、本当でもある。
介護してたのは“自分の壊れた心”だし、体調が悪かったのも嘘じゃない。
ただ──それを説明できる“正解の言葉”が、どこにも存在しないだけだ。

2.空白には、“戦っていた時間”が詰まっていた

履歴書の1行じゃ収まらない。
あの期間には、死にたい日が何度もあった。
就活に失敗して、アルバイトにも落ちて、
“何者でもない自分”に怯えて、布団から出られなかった。

病院に通って、診断名をもらった。
障害者手帳も申請した。
でも、それが“空白の正当な理由”として通用する場面は、
この社会には、ほとんど存在しなかった。

「病気で休んでた」と言えば、「再発の可能性はありますか?」
「障害がある」と言えば、「どの程度の業務ならできますか?」

じゃあ言わない方がいいのかと黙れば、「何もせずに過ごしてたの?」
努力してても、「何か形になるものはあるんですか?」

──つまり、この国には「壊れていた時間」を正しく説明するための“選択肢”がない。
履歴書の空欄は、ただの“サボり”にされる。

そして、そんなラベルを貼られたまま、次の面接に向かわされる。

3.「なぜ空白があるのか」よりも、「なぜ空白が許されないのか」

何度目かの面接の帰り道、ふと思った。
“空白があること”って、そんなに悪いことなのか?

誰かが死んだかもしれない。
誰かを看病してたかもしれない。
心が折れて、命をつなぐだけで精一杯だったかもしれない。

でも社会は、それを“理由”と認めない。
そこにあったのが「人生」でも、「努力」でも、「闘病」でも、すべて“空白”という名の沈黙に変わる。

俺たちに与えられるのは、「連続性」だけを重視した履歴書。
そのフォーマットに当てはまらない生き方は、すべて“なかったこと”にされる。

書類審査で落とされた瞬間、俺の数年間が否定される。
あの日々を支えてくれた医者も、薬も、支援者も、努力も、
全部が「なかったこと」になっていく。

4.“自己責任”って言うけど、どこまでが俺の責任だ?

「空白期間は自己責任」
「何かしら動いていればチャンスはあったはず」
「職歴がないのは“甘え”の結果」

──じゃあ聞くが、
働きたくても職場がない、
頑張っても支援が届かない、
診断を開示すれば落とされ、黙れば詐欺師扱い──
このルートのどこに“俺の自由意志”がある?

空白を作ったのは、俺か?
それとも、“普通であること”を前提にした社会か?

俺は確かに、動けなかった。
でも、動けないことすら“努力不足”って言うなら、
それはもう“障害”じゃなくて、“罪”なんだろうな。

空白とは、社会から罰せられた跡。
そして俺は、何度もその罰を受けた。

5.もう履歴書なんか書きたくない。でも、働かないと死ぬ

俺は今も、求人サイトを開いては閉じて、
履歴書を打っては消してる。
職務経歴書のテンプレートを埋めようとして、吐き気がして、やめる。

「空白の理由は、正直に説明すればいいんですよ」
支援者はそう言う。でも、その“正直”が面接を突破した試しはない。

むしろ、誠実に語った人間から、切り捨てられていった。

──“壊れていた”ってことを、なぜ俺たちはこんなにも隠さないといけないんだ?

いや、わかってる。企業にとってはリスクだ。
ブランクは不安材料だ。
でもな、こっちからすれば、その不安と向き合いながら、生きてきたんだよ。

働きたい。でも、履歴書を書くたびに、自分の過去が否定されていく。
生きていた証拠が、「空白」という名で無価値にされていく。

だったらもう、働くこと自体が罰ゲームじゃないか。


終わりに:この空白に、俺の命があったんだ

“何もしてなかった”空白なんて、俺にはなかった。
ただ、記録にならなかっただけ。
評価されなかっただけ。
見えなかっただけ。

履歴書には書けないけど、俺は生きていた。
ギリギリで命をつないでいた。

──その事実を、「無職」や「空白」という二文字に潰されながら、
俺は今日も、生きてるふりをして、働く場所を探してる。

社会は言う。「空白がある人は、信用できない」


じゃあ聞かせてくれ。
壊れながらも生き延びた時間は、何の価値もないのか?

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