“支援を活用できる人”だけが、支援を受けられる社会

1．支援の現場は“言語化能力選抜試験”になっている

「あなたは、何が苦手ですか？」
「どんな配慮があると助かりますか？」
「働くうえで、どんな目標を持っていますか？」

就労支援の面談では、こうした質問が当たり前のように投げかけられる。
しかし、黙って俯いたまま何も答えられない利用者を前にすると、
他の支援者は口をそろえて言う。

「この方、自己理解が浅いですね」
「通所が安定してから、また支援しましょう」
「本人の意欲が感じられないと、企業にも紹介しづらいです」

つまり、“支援を受ける資格”としてまず求められるのは、
自分をある程度客観的に見つめられ、言語化できる力なのだ。

でも、それができる人は、もう半分“社会に適応できる人”だ。
本当に支援が必要なのは、その言語化ができない人たちだ。
自分が何につまずいているのか、説明する前に心が折れる人たちだ。

それなのに、支援は、言える人に最適化されていく。

合理的配慮。
障害者雇用における制度として明記された、誇るべき法律上の権利。
でも現場では、こう言われる。

「本人が何を望んでいるのか、はっきりしませんね」
「配慮をお願いしたいなら、まず自分で伝えましょう」
「調整には限界がありますから、最低限の説明は必要です」

この“最低限”が、とてつもなく高い。
緊張しやすくて話せない人、説明が苦手な人、失敗の経験で萎縮してしまっている人。
そんな人たちは、「配慮を必要としている」どころか、
「配慮を求めることすらできない」状態にある。

すると、どうなるか。
彼らは「配慮がいらない人」とされる。
何も言わないから、何も与えられない。

“声を上げられない人は、配慮を受ける資格がない”
──それが、現実の合理的配慮の使われ方になっている。

私たちは制度の中で、成果を求められる。
支援件数、定着率、就職率。
見える数字がすべてのように扱われる。
だから、就職できそうな人に力を入れる。
通所が安定していて、意欲的な人。
挨拶ができて、メモが取れて、空気が読める人。

結果的に、「成果が出やすい人」ばかりが支援対象になっていく。
逆に、
・朝起きられない
・コミュニケーションが苦手
・通所の一貫性がない
・過去のトラウマで怯えている

そんな人たちは、支援の“優先順位”から外されていく。
制度は中立な顔をしているけれど、
実際には“できる障害者”を選別し、“できない障害者”を切り捨てている。

支援のふりをして、選抜試験をしている。
それが、制度の構造的な残酷さだ。

もちろん、支援は強制ではない。
本人が希望すれば利用できるし、希望しなければ自由だ。

でも、違うんだ。
支援を“使えない”人が、制度の外で、
どんなふうに黙って脱落していくかを、私たちは見ている。

・書類が書けず、申請ができない
・支援者に怒られるのが怖くて連絡が取れない
・“頑張らなきゃいけない場所”に通う気力がない

そして、通所が途切れ、連絡もなくなり、
「あの人は利用しない選択をした」と記録に残る。

違う。
あれは、“使えなかった”だけだ。
“支援を使いこなす能力”がない人は、制度の中にとどまれない。

「選ばなかった」のではなく、「脱落させられた」んだ。
私たちが、そう記録してしまっているだけだ。

言語化ができない人。
失敗してきた人。
自己肯定感が壊れている人。
制度の利用方法がわからない人。
支援者の顔色をうかがってしまう人。
“また怒られるのでは”と恐れて動けない人。

本当に必要としているのは、
「支援をうまく使える人」じゃない。
「支援がなければ、生き延びられない人」だ。

それでも、私たち支援者は、制度の成果を求められる。
定着率がすべて。就職率が命。
だから黙って、“使えない人”に目をつぶる。
仕方ないことのように、見ないふりをする。

そのたびに私は、自分が少しずつ鈍くなっていくのを感じる。
これは制度の限界ではなく、
社会が支援という名の選別機を黙認していることへの沈黙の加担だ。

支援の現場で働く私は、毎日、問い続けている。
「今、自分は誰を助けているのか」
「誰を選び、誰を見捨てているのか」

支援制度の中に、“支援を受ける力”という隠れた基準がある限り、
その制度は“できる人のためのもの”になり続ける。

そして、声を上げられない人、説明できない人、つまずいた人たちが、
静かに制度から脱落していく。

それを黙って見送る支援者にならないために、
私はせめて、この構造を言葉にしておく。

あなたが、見えなくなってしまわないように。
誰かの記録に「利用しない自由を選びました」とだけ残らないように。