
【1】朝、声を発することなく始まる一日
目覚ましの音で無理やり目を開ける。
今日も、誰とも話さない一日が始まる。
独り暮らし。狭いワンルーム。部屋に鳴り響くのは自分の呼吸音と冷蔵庫のモーター音だけ。
話し相手も、迎えてくれる人もいない。SNSで「おはよう」とつぶやくことすら、もうしなくなった。
誰にも会わないという安心感と、誰にも必要とされていないという現実。どちらが勝っているかは、よくわからない。
【2】非正規という不安定な現実
週4日勤務のアルバイト。雑用係のようなポジション。
責任は少ないけれど、信頼もされていない。休めば迷惑がられ、続けても評価されない。
「空気を読んで動いて」「コミュニケーションは大事だよ」
そんな漠然とした期待が、胸にずっしりのしかかる。
自分ではちゃんとやっているつもりなのに、どこか噛み合わない。怒られるほどのミスでもないが、褒められることもない。
同僚は挨拶以上の会話を交わしてこない。何年も勤めているのに、「影のような存在」としてただ時間を消費している。
昇給も契約社員化も望めない。年齢は重なっていくばかり。
【3】家族にも、頼れない
実家には何年も帰っていない。両親とは年賀状も交わさなくなった。
連絡を取るたびに、「まだ非正規なの?」「そろそろしっかりしなさい」と言われるのがわかっているからだ。
たとえ言葉が優しくても、根底には“失望”が透けて見える。
「大人として、自立して当たり前」という価値観が壁になり、心はどんどん離れていった。
今さら泣きついても、受け入れてはもらえないだろう。
だから黙っている。ただ、静かに遠ざかる。
【4】誰ともつながらない日々
友人はいない。
「学生時代の仲間」と呼べる人間はおらず、社会人になってから誰かと深く関係を築いたこともない。
雑談が続かない。冗談が通じない。距離感の調整ができず、近づこうとしては引かれ、離れれば忘れられる。
一対一の関係が築けない。グループにはなじめない。
結果として、誰もいなくなる。
支援機関にもつながっていない。以前、一度だけ地域の就労支援センターを訪ねたが、「今は仕事をしてるから、就職支援の対象にはなりません」と断られた。そこから、足は遠のいた。
病院も、福祉も、行政も、すべてが“自分ではない誰か”のためにあるように感じる。
【5】孤独と疲労と、不安と…
収入は手取り12万円台。ぎりぎりの生活。医療費がかかるほどの不調が出ても、病院には行かない。
保険証を財布に入れていても、使う余裕はない。
未来のことを考えると、呼吸が浅くなる。
このまま年齢を重ね、いつか体を壊したら?
誰が助けてくれるのか。どこへ行けばいいのか。
「ちゃんと相談すればいい」「つながる場所はある」と言う人もいる。
でも、そこへ行くまでの体力が、気力が、もう残っていない。
たったひとつのことをこなすだけで、精一杯。
今を維持することだけに、すべてのエネルギーが吸い取られている。
「困ったら助けてと言ってください」なんて、きれいごとだ
支援は「動ける人」のために設計されている。
支援につながれる人は、まだ恵まれている。
誰にもつながれず、声を上げることすら諦めた人は、社会の中に静かに沈んでいく。
名簿にも統計にも記録されない孤独の中で。
そして、誰も気づかない。
誰も気づかなくても、別に社会は困らないから。

にほんブログ村

にほんブログ村

にほんブログ村

にほんブログ村
コメント