
1.「面接は嘘じゃなかった。嘘になる病気だった」
俺は嘘をついたつもりはない。
「改善提案が得意です」「人と話すのも問題ないです」「すぐ成果出せます」
全部、本当の俺だった。
──躁の時は、な。
面接は躁の時に行った。
頭はキレキレ、ロジックも通る、アイデアもバンバン出せる。
自信満々で受け答えして、面接官を笑わせた。
「ぜひ来てほしい」
内定をもらって「やっと人生変わる」と思った。
──でも変わったのは俺じゃなく、俺への期待だけだった。
「お前はその躁状態でいろ」と言われてるのと同じだった。
でもそれが、できない病気なんだよ。
2.「職場は才能だけ奪って、俺を捨てる」
入社してから最初はヒーローだった。
「さすがだな」
「課題の本質を見抜くな」
「アイデアマン」
ミーティングで提案した内容が採用されるたびに、チームの業績が上がった。
上司も「助かるよ」と肩を叩いた。
「君みたいな人材を求めてた」
でも、それは俺が躁だった時だけ。
それが終わると、ただの不良在庫になった。
眠れない日が増えた。
そのうち逆に14時間寝ても起きられなくなった。
メールは溜まり、返信は支離滅裂になった。
タスク管理アプリは開けなくなった。
チームは「進捗どうなってる?」と詰めてきた。
「前みたいに頼むよ」「期待してるんだから」
もう前みたいには、できないんだよ。
病気が、そういうものだから。
3.「手柄は上司のもの。責任は俺のもの。」
休職を願い出ると、上司は渋い顔をした。
「え、君しか動かせない案件だよ?」
「どうすんの、それ」
俺が起き上がれない間に、上司は会議で「いい提案を思いついた」と俺のアイデアを話した。
「素晴らしい」「さすが課長」
そのまま稟議が通って、実行された。
チームも安堵していた。
「やっぱ課長頼れるわ」
「やっと進むな」
でも責任だけは俺に残っていた。
「なんで途中で投げたの?」
「なんで休むの?」
「なんで体調管理ができないの?」
俺が提案して、俺が動かしたのに。
成果は組織のもの。
失敗は俺個人の汚点。
履歴書に「短期離職」だけが残る。
4.「うつの俺は邪魔者扱い。それが合理的なんだよな。」
復職面談で上司は優しかった。
「無理はするな」
「体調を第一に」
「じゃあ、軽作業的なところから」
つまり、もうお前には期待してないってことだ。
「もういいから座ってろ」
「成果は要らない。でも責任も取れない」
「配置転換を考えようか」
躁の時の俺は会社の金を稼いだ。
でも、うつの俺は赤字を生む。
居場所はなくなる。
でもクビにするわけにもいかない。
「支援制度を使いましょう」
「傷病手当を検討しよう」
──要するに「もう来なくていいけど、死ぬなよ」
5.「社会が本当に求めてるのは“ずっと躁の奴”だ」
精神科に通うと、薬を渡される。
「気分の波を安定させましょう」
「再発予防が大事です」
安定すると、躁は消える。
あのクリエイティブも、行動力も消える。
何も生み出せない“おとなしい人”になる。
社会はそれを「安定」と呼ぶ。
「周りに迷惑をかけない」「管理しやすい」
でも社会が本当に欲しがってるのは躁の才能だ。
「アイデアを出せ」「改善しろ」「売上を上げろ」
「でも波は出すな」「休むな」「責任を取れ」
できるわけないだろ。
躁の時しかできないことを、ずっとやれなんて。
だから結局、使い捨てにされる。
アイデアだけ奪って、俺を捨てる。
「お前みたいな不安定な人間は要らない」
6.「死ぬな。でもお前の居場所はない」
「死ぬな」ってみんな言う。
「命が大事」「無理するな」「焦らなくていい」
でも働く場所はない。
書類を出しても落ちる。
障害者雇用も「波をコントロールできますか?」と訊く。
できませんって言ったら不採用だ。
支援者は言う。
「焦らなくていい」「少しずつでいい」
でも家賃は待ってくれない。
光熱費も、食費も。
「少しずつ」やってたら野垂れ死ぬ。
社会は「死ぬな」と言う。
でも「お前が居ていい場所はない」とも伝えてくる。
「邪魔だから隅っこにいろ」「でも生活保護は簡単にはやらんぞ」
死ぬな。
でも生きる場所も稼ぐ手段もくれない。
それが双極性障害で働く、ってことだ。
7.「俺は才能じゃなく、病気です」
躁の俺は確かに優秀だった。
アイデアも早いし、突破力もあった。
でもそれは病気だった。
「才能だ」と勘違いして信じた結果が、クレーム、損害、短期離職、借金。
履歴書に残る傷跡。
家族との断絶。
友達も離れた。
躁の時の輝きは、社会の役に立ったかもしれない。
でも俺の人生は壊した。
使われて捨てられて、誰も責任は取らない。
「自己責任」
「甘えるな」
「努力不足」
──その言葉で全部片付けて、社会は黙って見送る。
「死ぬなよ?」とだけ言ってな。

にほんブログ村

にほんブログ村

にほんブログ村

にほんブログ村
コメント