
電車の窓に映る自分の顔を、ふと見つめた。
疲れた目。のびっぱなしの前髪。パーカーの首元は少しよれている。
だけど、誰も気づかない。いや、気づいても関わりたくないのかもしれない。
それくらいには、俺は「大丈夫そうなフリ」をしている。
非正規。独身。30代後半。
友達は減った。親とは距離がある。恋人なんてもう何年いないだろう。
スマホの履歴に残るのは、求人サイトとフリマアプリ、そして半額シールの貼られた弁当を撮った写真だけ。
■「正社員になればいいじゃん」は、もう聞き飽きた
「頑張ればチャンスはある」
「転職すれば?」
「資格でも取れば?」
耳にタコができるくらい聞いてきた言葉だ。
だが、それができる人間と、できない人間がいる。
気力が続かない。面接に行く交通費すら惜しい。
たったそれだけのことが、現実には致命的になる。
俺が今いるのは、家賃5万5千円の風呂トイレ別アパート。
築35年、壁が薄く、冬は結露でカーテンが濡れる。
でも贅沢は言えない。
部屋があるだけマシ。
明日追い出されるわけじゃない。
それだけで、もう感謝しなきゃいけないレベルの暮らし。
■食費、削る日々
朝は食パン1枚。
昼はカップ麺か、まかないの余り。
夜はスーパーの半額惣菜。
野菜が足りないのは分かってる。でも金がない。
体調を崩せばアウト。
病院に行けば保険証を出すが、窓口で払う1,000円が本当に重い。
それでいて「健康第一」なんて、どの口が言うのか。
■孤独も贅沢になっていく
一人が気楽だなんて、あれは余裕のある人間の言葉だ。
本当の孤独は、気楽じゃない。
誰とも連絡を取らない日が3日、4日と続く。
沈黙が痛い。
「お前、最近どう?」と聞いてくれる人もいない。
誕生日も、正月も、年末年始も、ただ日付が過ぎていくだけ。
SNSを見るのがつらい。
結婚、出産、マイホーム、昇進、転職成功。
誰かの「充実」は、誰かの「敗北感」に変わる。
ミュートもブロックも限界がある。
情報化社会ってやつは、弱者に優しくない。
■恋愛は、どこかの国の物語
「誰かと付き合いたい」と思わなくなったのはいつからだろう。
いや、思ってはいけないと自分に言い聞かせるようになったのが正しい。
デート代も出せない。プレゼントも買えない。
会うたびに「お金ないの?」と聞かれるくらいなら、最初から関わらない方がいい。
婚活市場には“年収”という目に見えないランキングがある。
「優しさ」とか「誠実さ」は、年収500万以上の男にしか許されない付加価値だ。
年収200万の“誠実さ”には、誰も振り向かない。
■「夢」なんて持ったことが間違いだったのかもしれない
小学生の頃は、「サッカー選手になりたい」と言ってた。
中学生の頃は、「パソコン関係の仕事がしたい」と思ってた。
でも高校を出て、専門にも行けず、なんとなく働いて、気づけば非正規。
履歴書に堂々と書ける職歴はない。
空白の年月を埋めるための“言い訳”だけが増えていった。
ハローワークで担当職員に言われた一言が、未だに心に残っている。
「この年齢でその職歴だと、紹介できる求人は限られますね」
その“限られた”求人が、日給8,000円の倉庫作業だった。
■誰かの「自己責任」は、誰かの命綱を切る言葉
ネットでよく見る言葉がある。
「努力不足」「自己責任」「甘えるな」
そう言っている人は、ちゃんとした家に住んで、安定した収入があって、
今日の晩ごはんにも困ってないんだろう。
努力したからその場所にいるのかもしれない。
でも、努力できる体力が、気力が、支えてくれる誰かがいた人と、
何もなく生きてきた人とで、同じラインに立たされていいわけがない。
■それでも、朝は来る
朝になる。
目が覚める。
着替える。
働きに行く。
そしてまた、同じ一日が始まる。
こんな生活、いつまで続くのか分からない。
でも、生きてる。
それだけは、誰にも否定できない。
■終わりに:「普通」のフリをしてる人へ
あなたの隣の誰かも、実は似たような苦しみを抱えてるかもしれない。
明るく振る舞って、会社に来て、帰ったらコンビニ弁当を一人で食べてるかもしれない。
「大丈夫?」と聞かれたら「大丈夫です」と返すしかない人も、世の中にはいる。
非正規、独身、男。
そんな肩書に押し潰されそうになりながらも、
今日を生きてる人たちが確かにいる。
その存在が、消されないように。
誰かの一言が、命綱になり得ることを忘れないように。

にほんブログ村

にほんブログ村

にほんブログ村

にほんブログ村
コメント