“障害者雇用”は、健常者のまねが上手い人用でした

看護

2025.06.18

「障害者雇用なら安心ですよ」
そう言われて入社した職場で、最初に渡されたのは業務マニュアルでも雇用契約書でもなく、“職場の暗黙のルール”だった。

・休憩は“空気を読んで”取る
・皆と歩調を合わせて仕事を進める
・“できないこと”より“できること”をアピールする

──それ、全部、障害者雇用じゃなくても言われるやつだろ？
でも、これが現実だった。合理的配慮って、何だったっけ。

上司に「この作業、やり方がわからなくて…」と相談したら、
「なんで早く言わないの？もう少し自分で考えてから言ってよ」と返ってきた。

わからないから相談したんだよ。だけど、“相談の仕方”すら間違えてると、叱責の対象になる。

それでも言わなきゃ何も始まらないと言われて、言えば「空気を読め」って言われて、結局──沈黙するようになる。

“困ってます”と発信できる人だけが、配慮される仕組み。
それを「自己申告制」と呼ぶの、残酷じゃないか。

障害者雇用であっても、「できません」とは言いにくい。
だって、周りの“健常者に見える人たち”が普通にやってるから。

しかも、障害者雇用の中でも、器用な人たちがいる。段取りも記憶力も、滑舌もある。おそらくIQも高めだ。

そういう人たちは言う。「最初は大変だったけど、慣れれば大丈夫ですよ」
でも俺たちは──慣れる前に限界が来る。

努力しても、同じミスをする。改善しても、追いつかない。
そのうち、周りから“やる気がない”と思われ始める。

違うんだ。
やる気はある。できないだけなんだ。

でも、「できない」と言えるのは、“できることのほうが多い人”だけだった。

障害者雇用でも、求められるのは「明るく元気に協調性を持って働ける人」。
いや、それ健常者採用の求人票と何が違うの？

面接では、「障害によって配慮が必要な点はありますか？」と聞かれる。
あるから言う。すると、「うーん、うちの業務だと難しいですね」と断られる。

でも、ないと言うと、「じゃあ、他の社員と同じように働いてもらいますね」と言われる。

──どっちに転んでも地獄じゃないか。

障害者雇用って、「障害があるのに普通にできる人」専用なんだ。
「障害があるから普通にできない人」には、席はない。

そりゃそうだ。
企業にとって、“障害者雇用はノルマ”であって、“理解”じゃないんだから。

外見が普通。会話も普通。だから“普通にできるだろう”と見なされる。
でも中身は、情報処理に時間がかかり、注意が飛び、疲労で何もできなくなる脳。

でもそれは見えない。
見えないから、「できるのに甘えてる」と思われる。

結局、俺たちに求められていたのは、“健常者のまね”だった。
うまく演じられる人は残り、演じきれない人は去っていく。

そうして今日も、ひとつの席が空く。
「障害者雇用の定着率が低いのが課題です」と企業の担当者が言う。

──違う。
最初から「障害者を雇ってない」だけだ。

「障害があることを隠してでも、仕事をしないと生活できない」
「障害があることをオープンにしても、結局は“普通”を求められる」

どちらを選んでも、行き着く先は同じだった。

“普通じゃない自分”を抱えたまま働ける場所は、どこにもなかった。

「障害者雇用なら安心」なんて、きれいな建前。
中身は、“普通にできる障害者”にしか居場所がない設計。

そして、普通にできない俺たちは、
今日もどこにも属せず、
社会の下から、静かに落ちていく。