「求人票は増えたけど、俺の未来は売れ残った」

看護

1. 「求人票の束は未来への扉だったはずなのに」

就労支援に通い始めた頃、支援員は分厚い求人ファイルを笑顔で見せてくれた。
「今は売り手市場です。たくさんありますよ!」

その言葉に俺は少しだけ胸が熱くなった。
これまで短期離職ばかりで自信を失っていたけど、障害者雇用なら、きっと受け入れてくれるはずだ。
「俺にもまだチャンスがある」

だがページをめくるたびに現実は冷たかった。
「PC入力は必須」「Excelの関数は当然」
俺だって入力くらいはできるし、SUM関数もAVERAGEも打てる。
でも「ピボットテーブルは?マクロは?」
求人票の言葉は、俺に「足りない」ことを突きつけた。

求人票が多いほど、自分が要らない理由を並べ立てられてるみたいだった。
「売り手市場」という言葉は、企業が好きに選ぶための市場だった。


2. 「面接官の優しい笑顔に救われかけて」

支援員が添削してくれた履歴書を持って、震える手で面接室に入った。
最初の雑談は和やかで、「大丈夫だよ、緊張しないで」と面接官が笑った。
俺も「これなら受かるかもしれない」って思った。

けれど、履歴書を開いた瞬間、雰囲気が変わった。
「この空白期間はどう説明します?」
「短期離職ばかりですが、続けられる保証は?」
俺が口ごもると、面接官は微笑みを崩さずに続けた。
「無理して就職しなくても、支援所でもう少し準備したほうがいいんじゃない?」

その優しい声に、俺の心は折れた。
「選ばれないのはあなたの問題だよ」と言われているのが分かった。

面接室を出るとき、俺は「頑張ります」とだけ言った。
その言葉すら虚しかった。


3. 「支援員の励ましは、他人行きだった」

就労支援の個別面談で「大丈夫、頑張りましょう!」と背中を押されるたびに救われた気がした。
けれど次の瞬間、支援員は言った。
「この求人はちょっとハードル高いですね」「他の人なら受けられるけど…」

書類の書き直しを何度も指示され、志望動機をひねり出しても、支援員の声はもう上の空だった。
「今、他の利用者さん、面接決まったんです」
「すぐに決まる人も多いですよ」

その言葉を聞くたび、心の中で「俺はその対象じゃないんだ」と思った。
求人票を渡されても、自分が受ける未来は見えなかった。

「今は売り手市場ですからね」
その言葉が、どんどん俺を置き去りにした。


4. 「友人からの一言で縁が切れた夜」

LINEで「最近どう?」と聞かれたとき、勇気を出して「仕事探してるけど厳しい」と送った。
友人は「でも今求人多いだろ」「選ばなきゃあるって」
その一言で、画面を閉じた。

俺の苦しみは「選り好み」「努力不足」として処理された。
本当は毎日求人票をにらんで、面接落ちて、支援員に相談して、もう心がすり減っていたのに。

連絡は減った。
SNSでつながってても、俺だけ近況を言わなくなった。
誘われなくなった。
選ばれなかったのは企業だけじゃない。
友人にも「落ちた」んだと思った。


5. 「金が尽きる、心も尽きる」

面接交通費も惜しみ、電気代も食費も削った。
1日1食のこともあった。
求人票は増えたのに、選べる仕事は消えた。

支援員には「まだ大丈夫ですよ」と言われるけど、財布の中身はごまかせなかった。
PCスキルが「入力できます」止まりの俺を誰も欲しがらなかった。
「事務は経験者優遇」「Excel中級以上」
求人票の言葉が、俺を弾いた。

そして夜、電気を消して布団に入ると、
「売り手市場」という言葉だけが頭の中で鳴った。
「俺が売れないだけなんだ」
誰もそう言わないのに、そう書いてあった。


6. 「未来をくれたフリをして、選ばなかった世界」

就労支援も、面接官も、友人も、最初は希望をくれた。
「求人増えたよ」「今は売り手市場だよ」「頑張れば大丈夫」

でも現実は、「売れる商品だけを選ぶ世界」だった。
俺は「安くても売れ残る商品」だった。
「頑張れば売れるよ」という言葉は、「売れないのはお前の問題だ」と同義だった。

求人票が厚ければ厚いほど、俺の居場所は薄くなった。
書類がきれいになっても、面接官の目は冷たくなった。
支援員の声は遠くなった。
友人との会話は消えた。
金は尽きた。
心も尽きた。


求人票の分厚さは、俺を救う扉じゃなかった。
それは、選ばれる人を選ぶ分厚い壁だった。
そして、俺の未来を閉じ込める棺だった。

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