
転職を決意する朝
起きた瞬間、部屋の空気が重い。窓のカーテンから差し込む光が白く濁って見える。埃が空気の中でふわっと漂ってるのが見えるくらい、目が冴えてしまってる。
スマホのアラームを止めて、そのまま天井の木目を眺める。一本だけ色の濃い筋があって、そこをぼんやり目でなぞってたら、時計が20分進んでた。
「行きたくない」って言葉が、頭の奥でエコーみたいに響く。胸のあたりがじわっと重くなって、足が布団に沈む。
でも結局、体を起こしてスーツに袖を通す。シャツのボタンを留める指先が少し冷えてる。鏡を見たら、目の下にくっきりとクマ。
電車のホームは朝の湿った風が充満してて、鼻の奥に鉄っぽい匂いがする。通勤電車の中はスーツの人間が互いの肩を押し合っていて、広告ポスターの角が頬に当たりそうな距離。目の前の吊り広告には「キャリアアップ転職!」の大きな赤文字。にやけたモデルの顔が、やけに遠く感じる。
会社に着くと、デスクの上は昨日のまま。付箋の黄色とピンクがやたら主張してきて、視界の中でチカチカ動くように見える。
上司はコーヒーを片手に「おはよう」じゃなく、「例の件、今日中ね」。声のトーンが淡々としてて、こっちの体温だけ下がった気がした。心の中では、もう辞表を書き終えてる。
求人票をにらむ日々
ハローワークの端末は古くて、画面の端が少し黄ばんでる。指でタッチすると、画面が一瞬遅れて反応する。
「事務職・未経験可」とか書かれた求人を開いてみても、詳細の欄には「エクセル中級」「電話応対あり」「チームワーク重視」。どれも、過去に自分がつまずいた要素が詰め込まれてる。
机の上に置かれたボールペンが、蛍光灯の反射でギラッと光って目に刺さる。
スマホの求人アプリを開くと、「応募殺到中」の赤い帯が目立つ。スクロールする指先が乾いて、画面の滑りが悪い。
応募ボタンを押すたび、胸の奥に小さな針を刺されたみたいな感覚がある。「どうせ落ちるんだろ」という予感と一緒に。
履歴書と職務経歴書の地獄
パソコンのモニターが青白い光を放って、部屋全体が冷えたように見える。白紙のWord画面は、砂漠みたいに何もない。
自己PRを書き始めても、文字が全部薄っぺらく感じる。「協調性があります」と打って、エンターを押した瞬間に削除キーを連打。
髪が少し伸びてきたせいで、駅前の証明写真機に映る自分の輪郭がもやっと広がって見える。硬貨を入れた後、「もうちょっと痩せてから来ればよかった」と思っても、返金なんてない。
プリントされた顔は、目が少し泳いでて、背景のブルーがやたら鮮やか。封筒に入れる前から、これで勝負するのかと胃が重くなる。
面接会場の空気
ビルのロビーは、白いタイルが光を反射していて目が痛い。壁際の観葉植物の葉が乾いて、端が茶色くなってる。
待合の椅子は固くて、腰が少しずつ痛くなる。時計の針が「カチ、カチ」と音を立てるたび、心臓の鼓動も一緒に早くなる。
面接官が入ってくると、空気が急に冷えたみたいに感じる。
質問が予想と違って、「前職でやりがいを感じた瞬間は?」と来る。答えようとしても、口の中が乾きすぎて、舌が上あごにくっつく。
自分の声が、普段より半音高くなってるのが分かる。相手の表情はほとんど動かず、書類をめくる音だけがやけに大きく響く。
お祈りメールの積み重なり
スマホの通知音が、やけに甲高く聞こえる。「選考結果のご連絡」の文字を見た瞬間、指先が少し冷たくなる。
開けば、見慣れた文章。「今回は…」「慎重に検討した結果…」。スクロールしなくても最後の行まで読める。
未読のまま削除することも増える。メールアプリのアイコンの赤い数字が減らない。
同じ文章が並ぶ画面は、まるで押し花みたいに色も形も全部同じで、どれも過去の自分を閉じ込めたみたいに見える。
日常の崩れ
夜中の2時、スマホの画面だけが部屋を照らしてる。指の跡で画面が少し曇って、求人票の文字がにじんで見える。
カーテンは半分開けっぱなしで、外の街灯が黄色い光を投げ込んでくる。壁にうっすら影が揺れる。
朝は昼過ぎまで寝て、起きたら枕の跡が頬に深く残ってる。鏡を見ても、洗面台の蛍光灯が白く反射して、顔の細部はよく見えない。
部屋の隅に洗濯物が積み上がって、上の方のシャツが少し黄ばんでる。冷蔵庫を開けると、ペットボトルの水と、賞味期限が切れた豆腐が一丁。
LINEの未読は増える一方で、アイコンの色がやけに鮮やかに感じる。それが逆に目をそらしたくなる理由になる。
貯金の目減りと焦燥感
通帳の紙が、古いコピー用紙みたいに少し反ってる。ATMから出てくるとき、かすかにインクの匂いがした。
数字を見た瞬間、体の奥がひやっとする。1ヶ月で消えた額は、日常の中では実感しにくいけど、数字として並ぶと一撃が重い。
銀行のロビーは冷房が効きすぎて、腕の毛が逆立つ。周りの人は静かに順番を待ってるけど、自分だけ時間の流れが速くなった気がする。
「あと何ヶ月持つ?」って頭の中で計算しながら、外に出る。空は真っ青なのに、足取りだけ重い。

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