『ケーキの切れない非行少年たちのカルテ』を読んで

看護

こんにちは。

1/27ぶりの投稿になります。以前のように毎日記事を書けず申し訳ありません。

精神科医の宮口幸治先生の最新作を読み終わったので、感想を書いていきます。

漫画『ケーキを切れない非行少年たち』の小説版

現在1~5巻まで出版されている『ケーキの切れない非行少年たち』という漫画の小説版になります。

あらすじとしては、主人公の精神科医・六麦(ろくむぎ)先生が働く医療少年院で体験した話がオムニバス形式で登場してきます。

この小説には、男女合わせて4人の非行少年たちが登場します。当然ですが登場人物や事件の内容等は全て架空の物です。

1.暴力・万引きで少年院に入った田町雪人

2.障害・暴行で捕まり妊娠した状態で入院した門倉恭子

3.放火殺人を犯した新井路彦

4.性犯罪を犯した出水亮一

彼ら4人の少年が事件を起こしてから、医療少年院に入所→精神科医の六麦と出会い出所するまでの生活→出所後どうなったのか?までが描かれます。

よくある『大変な罪を犯してしまったけれど、少年院に入って無事更生して社会へ巣立っていく』というサクセスストーリー的な話ではありません。

彼ら4人に共通するのは、複雑な家庭環境・発達障害を抱えている・知能の低さ・貧困といった心身の障害・困難な環境下に置かれていることです。

次に医療少年院の説明をした後、個別の解説に入りたいと思います。

医療少年院とは何か?

医療少年院とは、中学生~20代前半までの男女が、様々な非行を犯して入る施設になります。

医療少年院と少年院の違いですが、医療少年院は心身に障害がある非行少年が入る施設です。

関東医療少年院 – Wikipedia

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少年院は年齢、犯した罪の種類と重さ、心身の状況によって5種類に分かれます。

そもそも少年院自体、非行少年のエリートと呼ばれています。大人はある程度の罪を犯すと即刑務所行きですが、未成年は違います。

少年院に入るという事は、よっぽどのことなのです。

現実の少年院は全国に約50か所あり、男子少年院・女子少年院・医療少年院の3種類に分かれます。

令和3年の犯罪白書によると、年間1600人前後の少年が入所するそうです。

何らかの事件を起こして家庭裁判所に送られる少年が年間約4万4千人おり、更にそこから少年院に入所するのは3.7%とのこと。

収容期間は事件の内容・少年の問題性にもよりますが約1年程度です。

私が中学生の頃、近所のゲームセンターに通っていた他校のワル的な生徒が少年院に送られたと聞いたことがあります。

当時は『何かやらかして捕まったんだな』程度に考えてましたが、本作を読む限り少年院に入るという事はよっぽどの罪を犯したのでしょう。

通常は補導・保護観察→再犯で少年鑑別所→少年院という流れのはずです。

1発で少年院に送られるような罪状というのは、傷害・放火・強姦・強盗・殺人などの事件になります。

この本に出てくる少年たちはいずれも医療少年院送りになってますが、ケース1の田町雪人以外は一度の犯行によって送致されています。

全員分解説すると完全ネタバレになってしまいますので、田町雪人のみ解説していきます。

ケース1:田町雪人はなぜ少年院送りになったのか

田町雪人、16歳。

2人兄弟の次男。兄も少年院入所歴あり。両親は少年が5歳の時に父親のDVが原因で離婚

その後父親は覚せい剤使用で逮捕される。以降母子家庭、女手一つで育てられる。家計は苦しい

6歳で万引きを始め、小学校に入っても万引きが続いていた。母は精神的に不安定で精神科に通院・服薬を続けていた。

母は夜に子供を置いて出かけることが度々あった。

少年が小学校5年生の時に虐待(ネグレクト)疑いで兄とともに一時保護所入所

中学からは怠学が目立ち始め、中学に入ってからも万引きが続いたため自立支援施設入所。

施設入所中も無断外出するなど生活が荒れていた。中学卒業まで施設にて過ごす。

児童自立支援施設を出てから建設現場で働いていたが、夜間に遊びまわり無断欠勤。職場での暴力・無免許運転・万引き・窃盗・無銭飲食などが

続き、少年鑑別所入所。IQ68。軽度知的障害が疑われたため医療少年院送致となった。

これが少年院に来るまでのエピソードです。

この後、医療少年院に入所した田町少年は、1年間医療少年院で過ごしながら更生を目指します。

ネタバレになりますが、田町雪人は良くも悪くも素直な性格で、施設では教官の講義に感銘を受け、優等生と呼ばれるほど真面目に過ごします。

少年院で設けられた勤勉賞を受賞。運動会では選手宣誓を務め、模範少年として入院期間が1カ月短縮され、10カ月で出院します。

ここまでを見るとサクセスストーリーのように見えますが、現実はそう上手くはいかないのです。

少年院を出た後に社会でつまづいてしまう少年たち

医療少年院は更生の為の施設であり、少年の知能や理解度に合わせて教育・更生プログラムを行います。

つまり、少年院のスタッフ総出で少年に合わせてくれる環境なわけです。しかし、社会に出たら周りが自分に合わせてくれる事は激減します。

少年院では小学5年生レベルの算数が出来ると周りから拍手を受けると書かれており、本人は六麦先生の診察時に喜んでその事を報告します。

その場では六麦先生も同調して『よかったね』と声掛けをしますが、診察後は『これで社会に出てやっていけるのだろうか』と心配しています。

その予感は的中してしまうこととなり、田町雪人は出院後、さらなる事件に加担して殺人を犯してしまうことになるのです。

出院後、母の親戚から建設会社の仕事を紹介してもらいます。少年院で付いた自信が後押しとなり、この会社で頑張ろうと決めて働くことになります。

しかし、不器用なは言われたことに付いていくだけで精一杯でした。

沖川社長から言われていた同僚や先輩たちは大目に見ていましたが、周囲の不満は日に日に溜まっていったのです。

先輩から叱られていたばかりだった田町は、ストレス発散にパチンコにハマっていました。

また、マッチングアプリで出会った20歳の澤部(さわべ)あゆみとご飯に行く中になっており、度々食事をするようになっていきます。

ある日、パチンコ屋で地元のワルい先輩、諸岡(もろおか)と再会してしまいます。

諸岡は田町雪人が少年院に入るきっかけを作った非行を押し付けてきた存在であり、諸岡が犯した犯罪も度々押し付けられていました

諸岡は体が大きくケンカも強かったため、チクると仕返しされることが怖かった雪人は警察に本当の事を話せなかったのです。

その日、諸岡に誘われて嫌々飲みに付き合った際、3件目まで付き合わされ、仕事のある日の深夜3時に解放されます。

そして、寝坊して仕事を無断欠勤してしまうのです。

翌日、会社の主任に叱られた後、『やる気がないならもう辞めろ』と言われカッとなった雪人は、主任を殴ってしまいます

その後社長の沖川が自宅を訪ねてきて、実質的に解雇になることを告げられます。

再び悪の道へがり落ちる人生

仕事を辞めて次の職を探していた雪人は、澤部あゆみに飲食店のアルバイトをしたらいいのでは?と勧められます。

言われた通りアルバイトの面接を受けて決まりかけるのですが、そこで再度諸岡に出会ってしまいます。

諸岡から『いい仕事がある』と言われた雪人は、スーツを用意され、指定された場所で封筒を受け取る仕事を頼まれます。

仕事内容は理解出来ませんでしたが、諸岡から、『信頼できる奴にしか頼めない』と言われた雪人は、その言葉を信じて仕事を受けてしまいます

その仕事とは、まさに特殊詐欺の受け子(他人のフリをしてだました人間からお金を受け取る役)だったのです。

そうとは知らずお金を受け取り指定のコインロッカーに入れた雪人は、諸岡から『よくやってくれた』と5万円を渡されます。

あまりにも簡単に大金を手に入れ、感謝までされた雪人は『この仕事なら続けられる』と再度自信を付けてしまいます

それが特殊詐欺という犯罪である事を知らずに。決まりかけていた飲食店のバイトも断ってしまいました。

何度か受け子の仕事を成功させていた雪人でしたが、ついに失敗する時がやってきます。

受け子として弁護士のフリをして金を受け取る相手の元に行く雪人でしたが、騙した相手が知り合いの神谷というお婆さんだったのです。

『雪人ちゃんじゃない。どうしてここに?』と言われた雪人は、その場を取り繕えずに封筒を受け取りに来たと答えてしまいます。

封筒を渡すのは弁護士の田崎さんという人であると答えた神谷のお婆さんは、雪人に不信感抱きます。

雪人はパニックになってしまい、なんと無理やり封筒を相手のバッグから奪おうとしてしまうのです。

抵抗され大声を出された雪人はその場から逃げ出します。詐欺の指示役から電話が来て、失敗したことを告げると電話は切られてしまいます。

家に警察が来ないか怯えている中、翌日諸岡から連絡が来て、『損害を受けたから弁償しなければいけなくなった。100万用意してほしい』と言われます。

そんなお金は払えないと雪人が伝えると、『じゃあ俺も責任取って50万出すから、残り50万は必ず用意するように』と言われます。

諸岡に迷惑をかけた責任を感じた雪人は、なんとか50万円用意しようと必死に考え、最終的に澤部あゆみに連絡します。

美容師の専門学校に合格した澤部あゆみは、学費の250万円のうち80万円を自分で貯めた分から、残りを母親から出してもらうことになっています。

その話を食事をした時に聞いていた雪人は、あゆみからお金を借りて支払いをした後、すぐに返せば大丈夫ではないかと考えます。

どうしても50万円必要で、すぐに5万円の利子を付けて返すから貸してほしいと頼まれたあゆみは、

1カ月後には55万円が返ってくると聞いて悪くない話だと思い、お金を雪人に渡してしまいます

雪人は50万円を諸岡に渡し、『これで先方にも顔が立つよ。ありがとう』といって帰りますが、二度と連絡が来ることはありませんでした。

再び諸岡からの仕事で55万円を稼ごうと思っていた雪人は、お金を返す当てが無くなってしまいます。

日雇いの仕事で10万円ほどしか手元になかった雪人は、約束の1カ月後を迎えてしまいます。

『早くお金を返して』と催促された雪人は、あゆみが母親に資金援助を受ける話を聞いていたので返済を待ってもらうよう交渉しようと

夜の公園にあゆみを呼び出します。

そこで返済について交渉しようとしますが、大切なお金を期限までに返さない雪人に対して激怒したあゆみに

『嘘つき!警察を呼ぶわよ!』『来ないで!』と叫ばれます。

その言葉で警察に捕まった自分と、母の落胆した姿が脳裏に映った雪人はカッとなり、近くあった大きい石で反射的にあゆみを殴ります

そして、倒れたあゆみに馬乗りになり、首を絞め続けました。

帰宅した雪人は、何事もなかったかのように1日過ごしますが、母に『人様に迷惑をかけないように』と言われていた言葉が頭から離れず

翌朝母に犯行を打ち明け、二人で警察に自首するのです。裁判の結果は8か月後に下されることになった。という部分でこの話は終わります。

田町雪人が遭遇した困難さ

話の最後に、著者の宮口先生の解説が入ってこの話は終わります。

このケースに出てきた田町雪人はIQ68で、精神年齢は最大でも小学6年生レベルです。

皆さんも小学生に戻ったつもりで、彼が遭遇した困難を想像してみてくださいと書かれています。

・言われた通りの仕事ができない

・叱られると背景が読めずに被害的に受け取ってしまう

・悪友からの誘いを断れない

・犯罪行為に巻き込まれて利用されてしまう

・大金をだまし取られても気づかない

・周りに支えてくれる大人がいない

雪人が小学生と考えれば、彼が物語の中で取った行動にも納得が行くのではないでしょうかと続けられています。

あゆみのような被害者を生まないためにはどうすればよかったのか。

田町雪人のような少年がいたら、周囲はどのように支援すればいいのか。

このエピソードは単なる非行少年の更生と再犯の話ではなく、犯罪を犯してしまう背景に何があったのか・どうしたら犯罪を防げたのか?という

部分まで考えさせられる内容になっています。

犯罪者に厳罰を求めるのは被害者や遺族の感情としては仕方ないと思いますが、単に犯罪者に罰を与えるだけでは再犯を防ぐことは難しいと思います。

田町雪人の場合は1度少年院で更生したかのように見えましたが、社会に出て再度つまづき、騙されてしまいました。

刑務所や少年院では更生のためのプログラムが組まれますが、出所・出院した後はいきなり周りと同じ土俵に立たされ、生きていかなければいけません。

手厚く支援してくれる家族もいなければ、まともな友人もおらず、拾ってくれる会社もなく、社会とのつながりが無い状態では生きていくのは難しいでしょう。

加えて知的障害があるわけです。発達障害や知的障害は身体障害のように見た目では分かりませんから、

周りからは『やる気がない』『怠けている』ように見えることもあります。

支援者はこうしたケースを見て、どのような支援をするべきだったのか、どうしたら支援につなげられたのかを考えなければいけません。

この本には残り3つのエピソードが収録されており、どれも解決困難なケースとなっています。

興味を持ってくださった方はぜひ実際に読んでみて、『なぜこうなったのか?』『どうしたらよかったのか?』と考えてほしいと思います。

ここまで読んで下さりありがとうございました。

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