「無理せずにね」が「お前はいらない」に変わる瞬間

1. 期待を持たせる面接の甘言
「障害者雇用だからこそ、安心して話してください」
「何でも相談してください」
面接官は人事のプロ。
柔らかい表情でこちらをほぐす。
「配慮を伝えても大丈夫」というムードを演出する。
俺も言った。
「刺激が強いとパニックを起こします」
「マルチタスクは難しいです」
「急かされると頭が真っ白になります」
面接官は深くうなずきながら、ペンを走らせる。
「大丈夫です」
「きちんと現場にも共有します」
まるで、「障害を受け入れる会社」の証明書をもらった気分だった。
あの時がピークだった。
2. 入社してからの「忙しい現場」と「できる範囲の配慮」
いざ入ると現場は別物だった。
人手が足りない、納期が厳しい、トラブルが頻発する。
「できる範囲で配慮」
それは、現場が暇なとき限定の話だった。
「ごめん、今日これお願いできる?」
「みんな手一杯だから頼むわ」
無理だと伝えると、
「そっか、仕方ないね」
でもその顔は、「こいつに任せるのは無理だな」と決めつけた顔。
優しさは、期待をゼロにするための潤滑油だった。
「こいつに期待しなければトラブルにならない」
そういう暗黙の了解が、あっという間にチームに伝わった。
3. 「無理しないでね」が「何も頼まない」に変わる
最初は「声かけてね」「無理しないでね」と言われた。
それは建前だった。
次第に「頼むと断られる人」になった俺には、
何も頼まなくなる。
「俺が手伝いましょうか」と言っても、
「大丈夫、大丈夫」と笑顔で返される。
その後すぐに、別の人に頼んでいるのが見える。
「あいつに頼むくらいなら自分でやる」
「断られるよりは他の人に」
仕事を外されることが「配慮」だと説明される。
でもそれは、
「お前は不要だ」と同義だった。
4. コストを減らしたい会社にとっての「合理的配慮」
会社にとって障害者雇用は義務。
雇用率を達成すれば国から助成金も出る。
でも現場で「使えない人間」を抱える余裕はない。
「手間がかかるなら任せない」
「責任を持たせるのは怖い」
「使えない人はなるべく目立たない場所に置く」
表向きは配慮。
実際は「コストをかけずに置物化する」戦略だ。
それを悟った時、心が折れた。
5. 孤立が「自分から辞める」というゴールに誘導する
誰からも仕事を振られなくなる。
話しかけられなくなる。
会話は業務連絡のみ。
「○○さん、これサインお願いします」
それだけ。
雑談も、相談もない。
気まずい空気がまとわりつく。
「あの人、ヒマそうだよね」
「いる意味あるの?」
直接クビにはしない。
でも居場所を奪う。
メンタルを削る。
「ここにいても意味がない」と思わせる。
最終的に言わせる。
「すみません、辞めさせてください」
6. 「自主退職」という形で、会社は責任を免れる
上司は言う。
「無理はさせられないから」
「配慮してたつもりだったけど…」
それは責任を放棄する呪文だ。
「辞めたのは本人の意思」
「配慮はしていた」
「強制はしていない」
人事には報告が上がる。
「障害者の方がご自身の都合で退職されました」
「うちの対応は問題なかった」
助成金も雇用率も計算し直すだけ。
次の「障害者枠」を埋めればいい。
7. もう一度面接に戻る絶望
辞めても生活は続く。
失業保険はすぐ尽きる。
支援機関に戻る。
「また就職活動を頑張りましょう」
履歴書に増えた「短期離職」。
面接官の目が止まる。
「なぜすぐ辞めたのですか」
何と答える?
「居づらくされました」
「仕事を外されました」
「辞めるように仕向けられました」
言えるわけがない。
結局「忍耐力不足」「ミスマッチ」と片付けられる。
俺のせいにして、また落とされる。
8. 「障害者雇用だから安心」は嘘だった
法定雇用率を達成するだけなら、
雇って辞めさせてもいい。
企業には罰則も痛みもない。
「配慮」という言葉は万能だ。
「配慮の限界」「できる範囲」という魔法の言葉で、
どこまでも責任を回避できる。
「障害者雇用だから大丈夫」
「合理的配慮があるから安心」
その言葉にすがった人間が、
仕事を外され、孤立し、
自分から消えていく構造を、
誰も責めない。
9. もう次はないかもしれない
短期離職が増えれば、書類で落とされる。
職歴が途切れれば、「使えない」とみなされる。
年齢を重ねれば、求人すら減る。
そしてまた支援員に言われる。
「次こそ頑張りましょう」
「自分に合う職場を探しましょう」
でももう、自分に合う場所なんかないと知ってしまった。
配慮を伝えれば落とされる。
隠しても続かない。
配慮を受ければ仕事を外される。
出口はどこにもない。
合理的配慮という名前の、
「ここから出て行け」だけが残る。

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