派遣切りと令和の闇鍋面談

看護

誰がクビを切り、誰が生き残るのか

世はまさに、人件費削減戦国時代。
派遣社員たちが、ある日突然、上司に呼ばれる。
その言葉は、いつだって曖昧で、優しくて、残酷だ。

「ちょっと今、お時間いいですか?」

この一言が、実は人斬りの合図だったことに、俺は後から気づく。
ここは、東京郊外の物流センター。
人も物も、早い者勝ちで回っていく。
だが、俺たちは物じゃない。……そう思いたかった。

■ 面談という名の“口頭通告”

小さな会議室に、俺と派遣元の担当者、そして現場のリーダーが座っている。
テーブルの上には、書類もペンもない。
あるのは空気の重みと、言いにくそうな目線だけだ。

「今回は、契約を更新しない方向で……」

そう言われた瞬間、空調の音だけが耳に残った。
俺は何か言わねばと思った。
「何か至らない点があったでしょうか?」
そう聞いたら、こう返ってきた。

「いえ、特に問題はないです。現場としても助かってたんですが……」
「ですが?」
「組織的な方針で、ちょっと人を絞らなきゃいけなくて……」

……なるほど。つまり、
俺の出来不出来ではなく、“空気”でクビが決まるらしい。

■ 評価なき職場に、未来はない

俺はこの現場で、誰よりも早く来て、黙って遅くまで働いた。
休憩時間にはフォークリフトの充電を確認し、
新人の教育まで引き受けていた。

だけどそれは、正社員の評価にも、人事の資料にも残らない。
“非正規の貢献”は、Excelの集計欄には存在しないのだ。

正社員のAさんはスマホいじりながら指示を飛ばすだけ。
でもなぜか、残るのはあの人だ。
なぜなら「コストをかけて雇ってるから」という、実に理不尽な理由。

コストの分だけ、命の価値があるというなら、
俺たちは、安売りの消耗品だったのだろう。

■ 闇鍋面談の正体

実はこの「切られ方」には、パターンがある。

  1. 曖昧な表現で核心を避ける
  2. 「本人の希望」にすり替える
  3. 書面に残さない
  4. 後任がすでに決まっている

俺の後に入る人間は、すでに面接済みだった。
言ってしまえば、俺の“席”は誰でもよかったということだ。
面談の最後に、「また何かあれば、ぜひうちに」と言われたけど、
その言葉は、ハリボテのように軽かった。

■ 「生活はどうするんですか?」

切られた後に、派遣会社の担当者が聞いてきた。
「生活、大丈夫そうですか?」と。

ふざけるな、と思った。
大丈夫じゃないから、働いてるんだよ。
こっちは夢じゃなく、家賃と水道光熱費の現実を抱えてるんだ。
何が“大丈夫そうですか”だ。
その質問の優しさは、斧に巻かれたリボンのようだった。

■ それでも、また働く

荷物をまとめてロッカーを出るとき、
誰にも挨拶されなかった。
正社員たちは、俺がいなくなることを知らなかったのか、
知っていて無視したのか、それすらも分からない。

だが俺は、泣かなかった。
なぜなら、こんなことは、これが初めてではなかったからだ。

そして翌週、俺は別の工場の朝礼に並んでいた。
「今日から入ります、〇〇です。よろしくお願いします」
自分で言っておきながら、どこか虚しい。
名前を呼ばれるたびに、「今度は、いつまでだろう」と思う。


エピローグ:使い捨て社会に、ささやかな抵抗を

「どうせ替えはいくらでもいる」
そう言われ続けた非正規雇用者たちは、
それでも明日を生きるために働いている。

たしかに俺たちは、正社員ほどの保証も、厚生も、未来もない。
だが、それでも「まともに働きたい」という願いだけは捨てていない。

この国が、願うことすら贅沢だと言うのなら――
せめて、この物語を誰かに知ってもらいたい。

俺たちは、いた。
ちゃんと、働いていた。
ただ、“名前”がなかっただけだ。

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